――その赤蜻蛉の刺繍が、大層な評判だし、分けて輸出さきの西洋の気受けが、それは、凄《すご》い勢《いきおい》で、どしどし註文が来ました処から、外国まで、恥を曝《さら》すんだって、羽をみんな、手足にして、紅いのを縮緬のように唄い囃《はや》して、身肌を見せたと、騒ぐんでしょう。」
(巻初に記して一粲《いっさん》に供した俗謡には、二三行、
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 脱落があるらしい、お米が口誦《くしょう》を憚《はばか》ったからである。)
「いやですわね、おじさん、蝶々や、蜻蛉は、あれは衣服《きもの》を着ているでしょうか。
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――人目しのぶと思えども
羽はうすもの隠されぬ――
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 それも一つならまだしもだけれど、一つの尾に一つが続いて、すっと、あの、羽を八つ、静かに銀糸で縫ったんです、寝ていやしません、飛んでいるんですわね。ええ、それをですわ、
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――世間、いなずま目が光る――
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 ――恥を知らぬか、恥じないか――と皆《みんな》でわあわあ、さも初路
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