の散ったのは、雨か、嵐か、人に礫《つぶて》を打たれたか、邪慳《じゃけん》に枝を折られたか。今もって、取留めた、悉《くわ》しい事は知らないんだが、それも、もう三十年。
……お米さん、私は、おなじその年の八月――ここいらはまだ、月おくれだね、盂蘭盆が過ぎてから、いつも大好きな赤蜻蛉の飛ぶ時分、道があいて、東京へ立てたんだが。――
――ああ、そうか。」
辻町は、息を入れると、石に腰をずらして、ハタと軽く膝をたたいた。
三
その時、外套《がいとう》の袖にコトンと動いた、石の上の提灯《ちょうちん》の面《つら》は、またおかしい。いや、おかしくない、大空の雲を淡く透《すか》して蒼白《あおじろ》い。
「……さて、これだが、手向けるとか、供えるとか、お米坊のいう――誰かさんは――」
「ええ、そうなの。」
と、小菊と坊さん花をちょっと囲って、お米は静《しずか》に頷《うなず》いた。
「その嬰児《あかんぼ》が、串戯《じょうだん》にも、心中の仕損いなどという。――いずれ、あの、いけずな御母堂から、いつかその前後の事を聞かされて、それで知っているんだね。
不思議な、怪しい、縁だなあ。
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