戸外《おもて》を喚《わめ》いて人が駆けた。
 この騒ぎは――さあ、それから多日《しばらく》、四方、隣国、八方へ、大波を打ったろうが、
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――三年の間、かたい慎み――
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 だッてね、お京さんが、その女《ひと》の事については、当分、口へ出してうわささえしなければ、また私にも、話さえさせなかったよ。
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――おなじ桜に風だもの、兄さんを誘いに来ると悪いから――
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 その晩、おなじ千羽ヶ淵へ、ずぶずぶの夥間《なかま》だったのに、なまじ死にはぐれると、今さら気味が悪くなって、町をうろつくにも、山の手の辻へ廻って、箔屋の前は通らなかった。……
 この土地の新聞|一種《ひといろ》、買っては読めない境遇だったし、新聞社の掲示板の前へ立つにも、土地は狭い、人目に立つ、死出|三途《さんず》ともいう処を、一所に※[#「彳+尚」、第3水準1−84−33]※[#「彳+羊」、第3水準1−84−32]《さまよ》った身体《からだ》だけに、自分から気が怯《ひ》けて、避《よ》けるように、避けるように、世間のうわさに遠ざかったから、花
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