後妻《うわなり》に赤くなった。
負《おぶ》っていたのが、何を隠そう、ここに好容色で立っている、さて、久しぶりでお目にかかります。お前さんだ、お米坊――二歳《ふたつ》、いや、三つだったか。かぞえ年。」
「かぞえ年……」
「ああ、そうか。」
「おじさんの家の焼けた年、お産間近に、お母《っか》さんが、あの、火事場へ飛出したもんですから、そのせいですって……私には痣《あざ》が。」
睫毛《まつげ》がふるえる。辻町は、ハッとしたように、ふと肩をすくめた。
「あら、うっかり、おじさんだと思って、つい。……真紅《まっか》でしたわ、おとなになって今じゃ薄《うっす》りとただ青いだけですの。」
おじさんは目を俯《ふ》せながら、わざと見まもったようにこういった。
「見えやしない、なにもないじゃないか、どこなのだね。」
「知らない。」
「まあさ。」
「乳の少し傍《わき》のところ。」
「きれいだな、眉毛を一つ剃《そ》った痕《あと》か、雪間の若菜……とでも言っていないと――父がなくなって帰ったけれど、私が一度無理に東京へ出ていた留守です。私の家《うち》のために、お京さんに火事場を踏ませて申訳がないよ。――とこ
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