汰《さた》をした。その色の浅黒い後妻《うわなり》の眉と鼻が、箔屋を見込んだ横顔で、お米さんの前髪にくッつき合った、と私の目に見えた時さ。(いとしや。)とその後妻が、(のう、ご親類の、ご新姐《しんぞ》さん。)――悉《くわ》しくはなくても、向う前だから、様子は知ってる、行来《ゆきき》、出入りに、顔見知りだから、声を掛けて、(いつ見ても、好容色《ごきりょう》なや、ははは。)と空《そら》笑いをやったとお思い、(非業の死とはいうけれど、根は身の行いでござりますのう。)とじろりと二人を見ると、お京さん、御母堂だよ、いいかい。怪我にも真似なんかなさんなよ。即時、好容色《ごきりょう》な頤《あご》を打《ぶ》つけるようにしゃくって、(はい、さようでござります、のう。)と云うが疾《はや》いか、背中の子。」
辻町は、時に、まつげの深いお米と顔を見合せた。
「その日は、当寺《こちら》へお参りに来がけだったのでね、……お京さん、磴《いしだん》が高いから半纏《はんてん》おんぶでなしに、浅黄鹿の子の紐でおぶっていた。背中へ、べっかっこで、(ばあ。)というと、カタカタと薄歯の音を立てて家《うち》ン中へ入ったろう。私が
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