々と煙の立つ、その線香を押着《おッつ》けたものであろう。
 この坊様《ぼんさま》は、人さえ見ると、向脛《むこうずね》なり踵《かかと》なり、肩なり背なり、燻《くす》ぼった鼻紙を当てて、その上から線香を押当てながら、
「おだだ、おだだ、だだだぶだぶ、」と、歯の無い口でむぐむぐと唱えて、
「それ、利くであしょ、ここで点《す》えるは施行《せぎょう》じゃいの。艾《もぐさ》入《い》らずであす。熱うもあすまいがの。それ利くであしょ。利いたりゃ、利いたら、しょなしょなと消しておいて、また使うであすソ。それ利くであしょ。」と嘗《な》め廻す体《てい》に、足許《あしもと》なんぞじろじろと見て商う。高野山秘法の名灸。
 やにわに長い手を伸ばされて、はっと後しざりをする、娘の駒下駄《こまげた》、靴やら冷飯《ひやめし》やら、つい目が疎いかして見分けも無い、退《の》く端の褄《つま》を、ぐいと引いて、
「御夢想のお灸であすソ、施行じゃいの。」
 と鯰《なまず》が這うように黒被布の背を乗出して、じりじりと灸を押着《おッつ》けたもの、堪《たま》ろうか。
「あれえ、」
 と叫んで、ついと退《の》く、ト脛《はぎ》が白く、横町
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