露肆
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)露店《よみせ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)この節|当《あて》もなし

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「火+發」、422−7]《ぱっ》
−−

       一

 寒くなると、山の手大通りの露店《よみせ》に古着屋の数が殖《ふ》える。半纏《はんてん》、股引《ももひき》、腹掛《はらがけ》、溝《どぶ》から引揚げたようなのを、ぐにゃぐにゃと捩《よじ》ッつ、巻いつ、洋燈《ランプ》もやっと三分《さんぶ》心《しん》が黒燻《くろくすぶ》りの影に、よぼよぼした媼《ばあ》さんが、頭からやがて膝《ひざ》の上まで、荒布《あらめ》とも見える襤褸頭巾《ぼろずきん》に包《くる》まって、死んだとも言わず、生きたとも言わず、黙って溝のふちに凍り着く見窄《みすぼ》らしげな可哀《あわれ》なのもあれば、常店《じょうみせ》らしく張出した三方へ、絹二子《きぬふたこ》の赤大名、鼠の子持縞《こもちじま》という男物の袷羽
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