り、外套《がいとう》、まんと、古洋服、どれも一式の店さえ八九ヶ所。続いて多い、古道具屋は、あり来《きた》りで。近頃古靴を売る事は……長靴は烟突《えんとつ》のごとく、すぽんと突立《つった》ち、半靴は叱られた体《てい》に畏《かしこま》って、ごちゃごちゃと浮世の波に魚《うお》の漾《ただよ》う風情がある。
両側はさて軒を並べた居附《いつき》の商人《あきんど》……大通りの事で、云うまでも無く真中《まんなか》を電車が通る……
夜店は一列片側に並んで出る。……夏の内は、西と東を各晩であるが、秋の中ばからは一月置きになって、大空の星の沈んだ光と、どす赤い灯の影を競いつつ、末は次第に流《ながれ》の淀《よど》むように薄く疎《まばら》にはなるが、やがて町尽《まちはず》れまで断《た》えずに続く……
宵をちと出遅れて、店と店との間へ、脚が極《き》め込みになる卓子《テエブル》や、箱車をそのまま、場所が取れないのに、両方へ、叩頭《おじぎ》をして、
「いかがなものでございましょうか、飛んだお邪魔になりましょうが。」
「何、お前さん、お互様です。」
「では一ツ御不省《ごふしょう》なすって、」
「ええ可《よ》うござ
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