いますともね。だが何ですよ。成《なり》たけ両方をゆっくり取るようにしておかないと、当節は喧《やかま》しいんだからね。距離をその八尺ずつというお達しでさ、御承知でもございましょうがね。」
「ですからなお恐入りますんで、」
「そこにまたお目こぼしがあろうッてもんですよ、まあ、口明《くちあけ》をなさいまし。」
「難有《ありがと》う存じます。」
などは毎々の事。
二
この次第で、露店の間《あわい》は、どうして八尺が五尺も無い。蒟蒻《こんにゃく》、蒲鉾《かまぼこ》、八ツ頭《がしら》、おでん屋の鍋《なべ》の中、混雑《ごたごた》と込合って、食物店《たべものみせ》は、お馴染《なじみ》のぶっ切飴《きりあめ》、今川焼、江戸前取り立ての魚焼《うおやき》、と名告《なのり》を上げると、目の下八寸の鯛焼《たいやき》と銘を打つ。真似《まね》はせずとも可《い》い事を、鱗焼《うろこやき》は気味が悪い。
引続いては兵隊饅頭《へいたいまんじゅう》、鶏卵入《たまごいり》の滋養麺麭《じようパン》。……かるめら焼のお婆さんは、小さな店に鍋一つ、七つ五つ、孫の数ほど、ちょんぼりと並べて寂《さみ》しい。
茶
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