、歯の浮く御仁、歯齦《はぐき》の弛《ゆる》んだお人、お立合の中に、もしや万一です。口の臭い、舌の粘々《ねばねば》するお方がありましたら、ここに出しておきます、この芳口剤で一度|漱《うがい》をして下さい。」
と一口がぶりと遣《や》って、悵然《ちょうぜん》として仰反《のけぞ》るばかりに星を仰ぎ、頭髪《かみ》を、ふらりと掉《ふ》って、ぶらぶらと地《つち》へ吐き、立直ると胸を張って、これも白衣《びゃくえ》の上衣兜《うわかくし》から、綺麗《きれい》な手巾《ハンケチ》を出して、口のまわりを拭いて、ト恍惚《うっとり》とする。
「爽《さわや》かに清《すずし》き事、」
と黄色い更紗《さらさ》の卓子掛《テエブルかけ》を、しなやかな指で弾《はじ》いて、
「何とも譬《たと》えようがありません。ただ一分間、一口含みまして、二三度、口中を漱《そそ》ぎますと、歯磨|楊枝《ようじ》を持ちまして、ものの三十分使いまするより、遥《はる》かに快くなるのであります。口中には限りません。精神の清く爽かになりますに従うて、頭痛などもたちどころに治ります。どうぞ、お試し下さい、口は禍《わざわい》の門《かど》、諸病は口からと申す
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