ま》えておらん人ばかりだから、そこで木製の蛇の運動を起すのを見て行《ゆ》きたまえと云うんだ。歯の事なんか言って聞かしても、どの道分りはせんのだから、無駄だからね、無駄な話だから決して売ろうとは云わんです。売らんのだから買わんでも宜しい。見て行《ゆ》きたまえ。見物をしてお出でなさい。今、運動を起す、一分間にして暴れ出す。
 だが諸君、だがね諸君、歯磨《はみがき》にも種々《いろいろ》ある。花王歯磨、ライオン象印、クラブ梅香散……ざっと算《かぞ》えた処で五十種以上に及ぶです。だが、諸君、言ったって無駄だ、どうせ買いはしまい、僕も売る気は無い、こんな処じゃ分るものは無いのだから、売りやせん、売りやせんから木製の蛇の活動を見て行《ゆ》きたまえ。」
 と青い帽子をずぼらに被《かぶ》って、目をぎろぎろと光らせながら、憎体《にくてい》な口振《くちぶり》で、歯磨を売る。
 二三軒隣では、人品骨柄《じんぴんこつがら》、天晴《あっぱれ》、黒縮緬《くろちりめん》の羽織でも着せたいのが、悲愴《ひそう》なる声を揚げて、殆《ほとん》ど歎願に及ぶ。
「どうぞ、お試し下さい、ねえ、是非一回御試験が仰ぎたい。口中に熱あり
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