と雨に濡れたような声して言う。
「これが知れたら、男二人はどうなります。その親兄弟は? その家族はどうなると思います。それが幕なのです。」
「さて、その後《あと》はどうなるのじゃ。」
「あら、……」
もどかしや。
「お前さんも、根問《ねどい》をするのね。それで可《い》いではありませんか。」
「いや、可《よ》うないわいの、まだ肝心な事が残ったぞ。」
「肝心な事って何です。」
「はて、此方《こなた》も、」
雨に、つと口を寄せた気勢《けはい》で、
「知れた事じゃ……肝心のその二度添《ぞい》どのはどうなるいの。」
聞くにも堪えじ、と美しい女《ひと》の眦《まなじり》が上《あが》った。
「ええ、廻りくどい! 私ですよ。」
と激した状《さま》で、衝《つ》と行燈《あんどん》を離れて、横ざまに幕の出入口に寄った。流るるような舞台の姿は、斜めに電光《いなびかり》に颯《さっ》と送られた。……
「分っているがの。」
と鷹揚《おうよう》に言って、
「さてじゃ、此方《こなた》の身は果《はて》はどうなるのじゃ。」
「…………」
ふと黙って、美しい女《ひと》は、行燈に、しょんぼりと残ったお稲の姿にその
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