お》った。

       二十五

「その望みが叶《かな》ったんです。
 そして、今日も、夫婦のような顔をして、二人づれで、お稲さんの墓参りに来たんです――夫は、私がこうするのを、お稲さんの霊魂《たましい》が乗りうつったんだと云って、無性に喜んでいるんです。
 殺した妹の墓の土もまだ乾かないのに、私と一所に、墓参りをして、御覧なさい、裁下《たちお》ろしの洋服の襟に、乙女椿の花を挿して、お稲は、こういう娘だったと、平気で言います。
 その気ですからね。」
 紳士の身体《からだ》は靴を刻んで、揺上《ゆりあ》がるようだったが、ト松崎が留めたにもかかわらず、かッと握拳《にぎりこぶし》で耳を圧《おさ》えて、横なぐれに倒れそうになって、たちまち射るがごとく町を飛んだ。その状《さま》は、人の見る目に可笑《おかし》くあるまい、礫《つぶて》のごとき大粒の雨。
 雨の音で、寂寞《ひっそり》する、と雲にむせるように息が詰《つま》った。
「幕の内の人、」
 美しい女《ひと》は、吐息《といき》して、更《あらた》めて呼掛けて、
「お前さんが言った、その二度添いの談話《はなし》は分ったんですか。」
「それから、」
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