知れません。
夫も夫、お稲さんの恋を破った。そこにおいでの他人も他人、皆《みんな》、女の仇《かたき》です。
幕の中の人、お聞きなさい。
二度添にされた後妻はね……それから夫の言《ことば》に、わざと喜んで従いました。
涙を流して同情して、いっそ、後妻と云うんなら、お稲さんの妹分になって、お稲さんにあやかりましょう。そのうまれ代わりになりましょう、と云って、表向きつてを求めて、お稲さんの実家に行って、そして私を――その後妻を――兄さんの妹分にして下さい、と言ったんです。
そこに居る他人は、涙を流して喜びました。もっとも、そこに居るようなハイカラさんは、少《わか》い女が、兄さん、とさえ云ってやれば、何でも彼《か》でも涙を流すに極《きま》っています。
私は精々《せっせ》と出入《ではい》りしました。先方《さき》からも毎日のように来るんです。そして兄さん、兄さんと、云ううちには、きっと袖を引くに極《きま》っているんです。しかも奥さんは永々の病気の処、私はそれが望みでした。」
電《いなびかり》が、南辻橋、北の辻橋、菊川橋、撞木《しゅもく》橋、川を射て、橋に輝くか、と衝《つ》と町を徹《と
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