かかったように見えたが、ちらりと筵《むしろ》の端を、雲の影に踏んで、美しい女《ひと》の雪なす足袋は、友染|凄《すご》く舞台に乗った。
目を明《あきら》かに凝《じっ》と視《み》て、
「その後妻とは、二度添とは誰れ、そこに居る人。」と肩を斜め、手を、錆《さ》びたが楯《たて》のごとく、行燈《あんどん》に確《しか》と置く。
「おおおお、誰や知らぬ、その二度添というのはの、……お稲が望《のぞみ》が遂げなんだ、縁の切れた男に、後で枕添《まくらぞえ》となった女子《おなご》の事いの。……娑婆《しゃば》はめでたや、虫の可《い》い、その男はの、我が手で水を向けて、娘の心を誘うておいて、弓でも矢でも貫こう心はなく、先方《さき》の兄者に、ただ断り言われただけで指を銜《くわ》えて退《すさ》ったいの、その上にの。
我勝手《われがって》や。娘がこがれ死《じに》をしたと聞けば、おのれが顔をかがみで見るまで、自惚《うぬぼ》れての。何と、早や懐中《ふところ》に抱いた気で、お稲はその身の前妻じゃ。――
との、まだお稲が死なぬ前に、ちゃッと祝言した花嫁御寮に向うての、――お主《ぬし》は後妻じゃ、二度目ぢゃと思うておくれ
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