せ》、千歳《ちとせ》、失《う》せず、枯れず、次第に伸びて艶を増す。その髪千筋一筋ずつ、獣《けもの》が食えば野の草から、鳥が啄《は》めば峰の花から、同じお稲の、同じ姿|容《かたち》となって、一人ずつ世に生れて、また同一《おなじ》年、同一《おなじ》月日に、親兄弟、家眷親属、己《おの》が身勝手な利慾《りよく》のために、恋をせかれ、情《なさけ》を破られ、縁を断《き》られて、同一《おなじ》思いで、狂死《くるいじに》するわいの。あの、厄年の十九を見され、五人、三人|一時《いっとき》に亡《う》せるじゃろうがの。死ねば思いが黒髪に残ってその一筋がまた同じ女と生れる、生きかわるわいの。死にかわるわいの。
その誰もが皆揃うて、親兄弟を恨む、家眷親属を恨む、人を恨む、世を恨《うら》む、人間五常の道乱れて、黒白《あやめ》も分かず、日を蔽《おお》い、月を塗る……魔道の呪詛《のろい》じゃ、何と! 魔の呪詛を見せますのじゃ、そこをよう見さっしゃるが可《い》い。
お稲の髪の、乱れて摩《なび》く処をのう。」
「死んだお稲さんの髪が乱れて……」
と美しい女《ひと》は、衝《つ》と鬢《びん》に手を遣ったが、ほつれ毛より
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