…その美しい女《ひと》の影は、分れた背中にひやひやと染《し》む。……
と、チャンチキ、チャンチキ、嘲《あざ》けるがごとくに囃す。……
がらがらと鳴って、電車が出る。突如として、どどん、じゃん、じゃん。――ぶらぶら歩行《ある》き出すと、ツンツンテンレン、ツンツンテンレン。
三
片側はどす黒い、水の淀《よど》んだ川に添い、がたがたと物置が並んで、米俵やら、筵《むしろ》やら、炭やら、薪《まき》やら、その中を蛇が這《は》うように、ちょろちょろと鼠が縫い行く。
あの鼠が太鼓をたたいて、鼬《いたち》が笛を吹くのかと思った。……人通り全然《まるで》なし。
片側は、右のその物置に、ただ戸障子を繋合《つなぎあ》わせた小家《こいえ》続き。で、一二軒、八百屋、駄菓子屋の店は見えたが、鴉《からす》も居《お》らなければ犬も居らぬ。縄暖簾《なわのれん》も居酒屋めく米屋の店に、コトンと音をさせて鶏が一羽|歩行《ある》いていたが、通りかかった松崎を見ると、高らかに一声鳴いた。
太陽《ひ》はたけなわに白い。
颯《さっ》と、のんびりした雲から落《おち》かかって、目に真蒼《まっさお》に映った
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