》、大紅蓮、……」
ああ、可厭《いや》な。
「阿鼻焦熱《あびしょうねつ》の苦悩《くるしみ》から、手足がはり、肉《み》を切《きり》こまざいた血の池の中で、悶《もだ》え苦《くるし》んで、半ば活《い》き、半ば死んで、生きもやらねば死にも遣《や》らず、死にも遣らねば生きも遣らず、呻《うめ》き悩んでいた所じゃ。
また万に一つもと、果敢《はかな》い、細い、蓮《はす》の糸を頼んだ縁は、その話で、鼠の牙《きば》にフッツリと食切られたが、……
ドンと落ちた穴の底は、狂気《きちがい》の病院|入《いり》じゃ。この段替ればいの、狂乱の所作《しょさ》じゃぞや。」
と言う。風が添ったか、紙の幕が、煽《あお》つ――煽つ。お稲は言《ことば》につれて、すべて科《しぐさ》を思ったか、振《ふり》が手にうっかり乗って、恍惚《うっとり》と目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》った。……
二十二
「どうするの、それから。」
細い、が透《とお》る、力ある音調である。美しい女《ひと》のその声に、この折から、背後《うしろ》のみ見返られて、雲のひだ染《にじ》みに蔽《おお》いかかる、桟敷裏《さじ
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