父さんの中気だけ治してな。」と妙に笑った。
「まあ、」
と目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》って、
「串戯《じょうだん》じゃないわ、人の気も知らないで。」
「無論、串戯ではないがね、女言|濫《みだ》りに信ずべからず、半分は嘘だろう。」
「いいえ!」
「まあさ、お前の前だがね、隣の女房《かみさん》というのが、また、とかく大袈裟《おおげさ》なんですからな。」
「勝手になさいよ、人に散々|饒舌《しゃべ》らしといて、嘘じゃないわ。ねえ、お稲ちゃん、女は女同士だわね。」
と乙女椿に頬摺《ほおず》りして、鼻紙に据えて立つ……
実はそれさえ身に染みた。
床の間にも残ったが、と見ると、莟《つぼみ》の堅いのと、幽《かすか》に開いた二輪のみ。
「ちょっと、お待ち。」
「何《なあに》、」と襖《ふすま》に手を掛ける。
「でも、少し気になるよ、肝心、焦《こが》れ死《じに》をされた、法学士の方は、別に聞いた沙汰なしかい。」
「先方《さき》でもね、お稲ちゃんがその容体だってのを聞いて、それはそれは気の毒がってね――法学士さんというのが、その若い奥さんに、真になって言ったんだって――お前は
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