しようがないから、病院へ入れたんです。お医者さんも初《はじめ》から首をお傾《ま》げだったそうですよ。
まあね。それでも出来るだけ手当をしたにはしたそうだけれど、やっぱり、……ねえ……おとむらいになってしまって――」
と薄《うっす》りした目のうちが、颯《さっ》とさめると、ほろりとする。
二十
春狐は肩を聳《そびや》かした。
「なったんじゃない……葬式《ともらい》にされたんだ。殺されたんだよ。だから言わない事じゃない、言語道断だ、不埒《ふらち》だよ。妹を餌《えさ》に、鰌《どじょう》が滝登りをしようなんて。」
「ええ、そうよ……ですからね、兄って人もお稲ちゃんが病院へ入って、もう不可《いけ》ないっていう時分から、酷《ひど》く何かを気にしてさ。嬰児《あかんぼ》が先に死ぬし、それに、この葬式《ともらい》の中だ、というのに、嫂《あによめ》だわね、御自慢の細君が、またどっと病気で寝ているもんだから、ああ稲がとりに来たとりに来たって、蔭ではそう云っていますとさ。」
「待っていた、そうだろう。その何だ、ハイカラな叔母なんぞを血祭りに、家中|鏖殺《みなごろし》に願いたい。ついでにお
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