ば、まだ若かろうに何の真似だい。」
「お稲ちゃんは、またそんなでいて、しくしく泣き暮らしてでも、お在《いで》だったかと思うと、そうじゃないの……精々《せっせ》裁縫《おしごと》をするんですって。自分のものは、肌のものから、足袋まで、綺麗に片づけて、火熨斗《ひのし》を掛けて、ちゃんと蔵《しま》って、それなり手を通さないでも、ものの十日も経《た》つと、また出して見て洗い直すまでにして、頼まれたものは、兄さんの嬰児《あかんぼ》のおしめさえ折りめの着くほど洗濯してさ。」
「おやおや、兄の嬰児《あかんぼ》の洗濯かね。」
「嫂《あによめ》というのが、ぞろりとして何にもしやしませんやね。またちょっとふめるんだわ。そりゃお稲ちゃんの傍《そば》へは寄附《よッつ》けもしませんけれども。それでもね、妹が美しいから負けないようにって、――どういう了簡《りょうけん》ですかね、兄さんが容色《きりょう》望みで娶《と》ったっていうんですから……
 小児《こども》は二人あるし、家《うち》は大勢だし、小体《こてい》に暮していて、別に女中っても居ないんですもの、お守《も》りから何から、皆《みんな》、お稲ちゃんがしたんだわ。」
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