ない事、夜が更けた、色艶《いろつや》は。
そして二三度見つかりましたとさ。起返って、帯をお太鼓にきちんと〆《し》めるのを――お稲や、何をおしだって、叔母さんが咎《とが》めた時、――私はお母《っか》さんの許《とこ》へ行くの――
そう云ってね、枕許《まくらもと》へちゃんと坐って、ぱっちり目を開けて天井を見ているから、起きてるのかと思うと、現《うつつ》で正体がないんですとさ。
思詰《おもいつ》めたものだわねえ。」
十八
「まだね。危いってないの。聞いても、ひやひやするのはね、夜中に密《そっ》と箪笥《たんす》の抽斗《ひきだし》を開けたんですよ。」
「法学士の見合いの写真?……」
「いいえ、そんなら可《い》いけれど、短刀を密《そっ》と持ったの、お母さんの守護刀《まもりがたな》だそうですよ……そんな身だしなみのあったお母さんの娘なんだから、お稲ちゃんの、あの、きりりとして……妙齢《としごろ》で可愛い中にも品の可《よ》かった事を御覧なさい。」
「余り言うのはよせ、何だか気を受けて、それ、床の間の花が、」
「あれ、」
と見向く、と朱鷺色《ときいろ》に白の透《すか》しの乙女椿《
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