きたいようだったの。
 髮のいい事なんて、もっとも盛《さかり》も盛だけれども。」
「幾歳《いくつ》だ。」
「十九……明けてですよ。」
「ああ、」と思わず煙管《きせる》を落した。
「勿論、お婿さんは知らずらしいね。」
「ええ、そのお婿さんの事で、まあ亡くなったんですよ。」
 はっと思い、
「や、自殺か。」
「おお吃驚《びっくり》した……慌てるわねえ、お前さんは。いいえ、自殺じゃないけれども、私の考えだと、やっぱり同一《おんなじ》だわ、自殺をしたのも。」
「じゃどうしたんだよ。」
「それがだわね。」
「焦《じれ》ったい女だな。」
「ですから静《しずか》にお聞きなさいなね、稲ちゃんの内じゃ、成りたけ内証《ないしょ》に秘《かく》していたんだそうですけれど、あの娘《こ》はね、去年の夏ごろから――その事で――狂気《きちがい》になったんですって。」
「あの、綺麗な娘《こ》が。」
「まったくねえ。」
 と俯向《うつむ》いて、も一つ半纏の襟を合わせる。

       十七

「妙齢《としごろ》で、あの容色《きりょう》ですからね、もう前《ぜん》にから、いろいろ縁談もあったそうですけれど、お極《きま》りの
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