ざぶとん》から斜《ななめ》になって、
「へーい、ちっとも知らなかった。」
「私もさ……今ね、内の出窓の前に、お隣家《となり》の女房《かみ》さんが立って、通《とおり》の方を見てしくしく泣いていなさるから、どうしたんですって聞いたんです。可哀相に……お稲ちゃんのお葬式《ともらい》が出る所だって、他家《よそ》の娘《こ》でも最惜《いとし》くってしようがないって云うんでしょう。――そう云えば成程何だわね、この節じゃ多日《しばらく》姿を見なかったわね、よくお前さん、それ、あの娘《こ》が通ると云うと、箸をカチリと置いて出窓から、お覗《のぞ》きだっけがね。」
苦笑いで、春狐子。
「余計な事を言いなさんな、……しかし惜《おし》いね、ちょっとないぜ、ここいらには、あのくらいな一枚絵は。」
「うっかり下町にだってあるもんですか。」
「などと云うがね、お前もお長屋月並だ。……生きてるうちは、そうまでは讃《ほ》めない奴《やつ》さ、顔がちっと強《きつ》すぎる、何のってな。」
「ええ、それは廂髪《ひさしがみ》でお茶の水へ通ってた時ですわ。もう去年の春から、娘になって、島田に結ってからといったら、……そりゃ、くいつ
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