りのコンを鳴く。狸はあやふやに、モウと唸《うな》って、膝にのせた、腹鼓。
 囃子に合わせて、猫が三疋、踊る、踊る、いや踊る事わ。
 青い行燈とその前に突伏《つっぷ》した、雪女の島田のまわりを、ぐるりぐるりと廻るうちに、三ツ目入道も、ぬいと立って、のしのしと踊出す。
 続いて囃方《はやしかた》惣踊《そうおど》り。フト合方が、がらりと替って、楽屋で三味線《さみせん》の音《ね》を入れた。
 ――必ずこの事、この事必ず、丹波の太郎に沙汰するな、この事、必ず、丹波の太郎に沙汰するな――
 と揃って、異口同音《くちぐち》に呼ばわりながら、水車《みずぐるま》を舞込むごとく、次第びきに、ぐるぐるぐる。……幕へ衝《つ》と消える時は、何ものか居て、操りの糸を引手繰《ひったぐ》るように颯《さっ》と隠れた。
 筵舞台に残ったのは、青行燈《あおあんどん》と雪女。
 悄《しお》れて、一人、ただうなだれているのであった。
 上なる黒い布は、ひらひらと重くなった……空は化物どもが惣踊りに踊る頃から、次第に黒くなったのである。
 美しい女《ひと》は、はずして、膝の上に手首に掛けた、薄色のショオルを取って、撫肩の頸《うな
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