》の三ツ目入道、どろどろどろと顕《あらわ》れけり

       十三

 樽を張子《はりこ》で、鼠色の大入道、金銀張分けの大の眼《まなこ》を、行燈|見越《みこし》に立《たち》はだかる、と縄からげの貧乏|徳利《どっくり》をぬいと突出す。
「丑満《うしみつ》の鐘を待兼ねたやい。……わりゃ雪女。」
 とドス声で甲《かん》を殺す……この熊漢《くまおとこ》の前に、月からこぼれた白い兎《うさぎ》、天人の落し児といった風情の、一束《ひとつか》ねの、雪の膚《はだ》は、さては化夥間《ばけなかま》の雪女であった。
「これい、化粧が出来たら酌をしろ、ええ。」
 と、どか胡坐《あぐら》、で、着ものの裾《すそ》が堆《うずたか》い。
 その地響きが膚に応《こた》えて、震える状《さま》に、脇の下を窄《すぼ》めるから、雪女は横坐りに、
「あい、」と手を支《つ》く。
「そりゃ、」
 と徳利を突出した、入道は懐から、鮑貝《あわびがい》を掴取《つかみと》って、胸を広く、腕へ引着け、雁《がん》の首を捻《ね》じるがごとく白鳥の口から注《つ》がせて、
「わりゃ、わなわなと震えるが、素膚《すはだ》に感じるか、いやさ、寒いか。」と
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