か》いた、小松葺《こまつたけ》、大きな蛤《はまぐり》十ばかり一所に転げて出そうであったが。
 舞台に姿見の蒼《あお》い時よ。
 はじめて、白玉のごとき姿を顕す……一|人《にん》の立女形《たておやま》、撫肩しなりと脛《はぎ》をしめつつ褄《つま》を取った状《さま》に、内端《うちわ》に可愛《かわい》らしい足を運んで出た。糸も掛けない素の白身《はくしん》、雪の練糸《ねりいと》を繰るように、しなやかなものである。
 背丈|恰好《かっこう》、それも十一二の男の児が、文金高髷の仮髪《かつら》して、含羞《はにかん》だか、それとも芝居の筋の襯染《したじめ》のためか、胸を啣《くわ》える俯向《うつむ》き加減、前髪の冷たさが、身に染む風情に、すべすべと白い肩をすくめて、乳を隠す嬌態《しな》らしい、片手柔い肱《ひじ》を外に、指を反らして、ひたりと附けた、その頤《おとがい》のあたりを蔽《おお》い、額も見せないで、なよなよと筵《むしろ》に雪の踵《かかと》を散らして、静《しずか》に、行燈の紙の青い前。

       十二

 綿かと思う柔《やわらか》な背を見物へ背後《うしろ》むきに、その擬《こしら》えし姿見に向って
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