が、変にここまで間を措《お》いて、思出したように、遁込《にげこ》んだ饂飩屋の滑稽な図を笑ったので、どっというのが、一つ、町を越した空屋の裏あたりに響いて、壁を隔てて聞くようにぼやけて寂しい。
「東西、東西。」
青月代《あおさかやき》が、例の色身《いろみ》に白い、膨《ふっく》りした童顔《わらわがお》を真正面《まっしょうめん》に舞台に出て、猫が耳を撫《な》でる……トいった風で、手を挙げて、見物を制しながら、おでんと書いた角行燈をひょいと廻して、ト立直して裏を見せると、かねて用意がしてあった……その一小間《ひとこま》が藍《あい》を濃く真青《まっさお》に塗ってあった。
行燈が化けると云った、これが、かがみのつもりでもあろう、が、上を蔽《おお》うた黒布の下に、色が沈んで、際立って、ちょうど、間近な縁台の、美しい女《ひと》と向合《むきあわ》せに据えたので、雪なす面《おもて》に影を投げて、媚《なまめ》かしくも凄《すご》くも見える。
青月代は飜然《ひらり》と潜《くぐ》った。
それまでは、どれもこれも、吹矢に当って、バッタリと細工ものが顕《あらわ》れる形に、幕へ出入りのひょっこらさ加減、絵に描《
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