と、も一つかんで、差配は鼻紙を袂《たもと》へ落す。
「御寿命、へい、何にいたせ、それは御心配な事で。お怪我《けが》がなければ可《よ》うございます。」
「賽《さい》の河原は礫原《こいしはら》、石があるから躓《つまず》いて怪我をする事もあろうかね。」と陰気に差配。
「何を言わっしゃります。」
「いえさ、饂飩屋さん、合点の悪い。その娘はもう亡くなったんでございますよ。」と青月代が傍《そば》から言った。
「お前様も。死んだ迷児《まいご》という事が、世の中にござりますかい。」
「六道の闇《やみ》に迷えば、はて、迷児ではあるまいか。」
「や、そんなら、お前様方は、亡者《もうじゃ》をお捜しなさりますのか。」
「そのための、この白張提灯《しらはりぢょうちん》。」
と青月代が、白粉《おしろい》の白《しろ》けた顔を前へ、トぶらりと提げる。
「捜いて、捜いて、暗《やみ》から闇へ行く路じゃ。」
「ても……気味の悪い事を言いなさる。」
「饂飩屋、どうだ一所に来るか。」
と頭《かしら》は鬼のごとく棒を突出す。
饂飩屋は、あッと尻餅。
引被《ひっかぶ》せて、青月代が、
「ともに冥途《めいど》へ連行《つれゆ》
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