立停《たちどま》ろうと云うらしかった。
「鍋焼饂飩《なべやきうどん》…」
 と高らかに、舞台で目を眠るまで仰向《あおむ》いて呼んだ。
「……ああ、腹が空いた、饂飩屋。」
「へいへい、頭《かしら》、難有《ありがと》うござります。」
 うんざり鬢《びん》は額を叩いて、
「おっと、礼はまだ早かろう。これから相談だ。ねえ、太吉さん、差配さん、ちょっぴり暖まって、行こうじゃねえかね。」
「賛成。」
 と見物の頬被りは、反《そり》を打って大《おおい》に笑う。
 仕種《しぐさ》を待構えていた、饂飩屋小僧は、これから、割前《わりまえ》の相談でもありそうな処を、もどかしがって、
「へい、お待遠様で。」と急いで、渋団扇で三人へ皆配る。
「早いんだい、まだだよ。」
 と差配になったのが地声で甲走《かんばし》った。が、それでも、ぞろぞろぞろぞろと口で言い言い三人、指二本で掻込《かっこ》む仕形《しかた》。
「頭《かしら》、……御町内様も御苦労様でございます。お捜しなさいますのは、お子供衆で?」
「小児なものかね、妙齢《としごろ》でございますよ。」
 と青月代が、襟を扱《しご》いて、ちょっと色身で応答《あしら》う
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