ますとも。それがでございますよ。はい、こうして鉦太鼓で探捜《さがし》に出ます騒動ではございますが、捜されます御当人の家《うち》へ、声が聞えますような近い所で、名を呼びましては、表向《おもてむき》の事でも極《きまり》が悪うございましょう。それも小児《こども》や爺婆《じじばば》ならまだしも、取って十九という妙齢《としごろ》の娘の事でございますから。」
と考え考え、切れ切れに台辞を運ぶ。
その内も手を休めず、ばっばっと赤い団扇、火が散るばかり、これは鮮明《あざやか》。
七
青月代は辿々《たどたど》しく、
「で、ございますから、遠慮をしまして、名は呼びません、でございましたが、おっしゃる通り、ただ迷児迷児と喚《わめ》きました処で分るものではございません。もう大分町も離れました、徐々《そろそろ》娘の名を呼びましょう。」
「成程々々、御心附至極の儀。そんなら、ここから一つ名を呼んで捜す事にいたしましょう。頭《かしら》、音頭を願おうかね。」
「迷児の音頭は遣《や》りつけねえが、ままよ。……差配《おおや》さん、合方だ。」
チャーンと鉦《かね》の音《ね》。
「お稲《いな》さんや
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