」と返事をした。が、界隈《かいわい》の荒れた卵塔場から、葬礼《とむらい》あとを、引攫《ひっさら》って来たらしい、その提灯は白張《しらはり》である。
 大屋は、カーンと一つ鉦《かね》を叩いて、
「大分|夜《よ》が更けました。」
「亥刻《いのこく》過ぎでございましょう、……ねえ、頭《かしら》。」
「そうよね。」
 と棒をコツン、で、くすくすと笑う。
「笑うな、真面目《まじめ》に真面目に、」と頬被がまた声を掛ける。
 差配様が小首を傾け、
「時に、もし、迷児、迷児、と呼んで歩行《ある》きますが、誰某《だれそれ》と名を申して呼びませいでも、分りますものでござりましょうかね。」
「私《わっし》もさ、思ってるんで。……どうもね、ただこう、迷児と呼んだんじゃ、前方《さき》で誰の事だか見当が附くめえてね、迷児と呼ばれて、はい、手前でござい、と顔を出す奴《やつ》もねえもんでさ。」とうんざり鬢が引取って言う。
「まずさね……それで闇《くら》がりから顔を出せば、飛んだ妖怪《ばけもの》でござりますよ。」
 青月代の白男《しろおとこ》が、袖を開いて、両方を掌《て》で圧《おさ》え、
「御道理《ごもっとも》でござい
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