るよう、電信柱に棟の霞んで聳《そび》えたのがある。
空屋か、知らず、窓も、門《かど》も、皮をめくった、面に斉《ひと》しく、大《おおき》な節穴が、二ツずつ、がッくり窪《くぼ》んだ眼《まなこ》を揃えて、骸骨《がいこつ》を重ねたような。
が、月には尾花か、日向《ひなた》の若草、廂《ひさし》に伸びたも春めいて、町から中へ引込んだだけ、生ぬるいほどほかほかする。
四辺《あたり》に似ない大構えの空屋に、――二間ばかりの船板塀《ふないたべい》が水のぬるんだ堰《いせき》に見えて、その前に、お玉杓子《たまじゃくし》の推競《おしくら》で群る状《さま》に、大勢|小児《こども》が集《たか》っていた。
おけらの虫は、もじゃもじゃもじゃと皆|動揺《どよ》めく。
その癖静まって声を立てぬ。
直《じ》きその物売の前に立ちながら、この小さな群集の混合ったのに気が附かなかったも道理こそ、松崎は身に染みた狂言最中見ぶつのひっそりした桟敷《さじき》うらを来たも同じだと思った。
役者は舞台で飛んだり、刎《は》ねたり、子供芝居が、ばたばたばた。
五
大当り、尺的《しゃくまと》に矢の刺《ささ》った
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