いて見ると、いや、荷の蔭に人が居た。
 男か、女か。
 と、見た体《てい》は、褪《あ》せた尻切《しりきり》の茶の筒袖《つつッぽ》を着て、袖を合わせて、手を拱《こまぬ》き、紺の脚絆穿《きゃはんばき》、草鞋掛《わらじがけ》の細い脚を、車の裏へ、蹈揃《ふみそろ》えて、衝《つ》と伸ばした、抜衣紋《ぬきえもん》に手拭《てぬぐい》を巻いたので、襟も隠れて見分けは附かぬ。編笠、ひたりと折合わせて、紐《ひも》を深く被《かぶ》ったなりで、がっくりと俯向《うつむ》いたは、どうやら坐眠《いねむ》りをしていそう。
 城の縄張りをした体《てい》に、車の轅《え》の中へ、きちんと入って、腰は床几《しょうぎ》に落したのである。
 飴屋《あめや》か、豆屋か、団子を売るか、いずれにも荷が勝った……おでんを売るには乾いている、その看板がおもしろい。……

       四

 屋台の正面を横に見せた、両方の柱を白木綿で巻立てたは寂しいが、左右へ渡して紅金巾《べにがなきん》をひらりと釣った、下に横長な掛行燈《かけあんどん》。
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一………………………………坂東よせ鍋《なべ》
一………………………………尾上
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