階《きざはし》のある処《ところ》。
「千鳥、千鳥、あれ/\……」
 と且《か》つ指《ゆびさ》し、且つ恍惚《うっとり》と聞きすます体《てい》にして、
「千鳥や、千鳥や。」
 と、やゝ声を高うした。
 向う前栽《せんざい》の小縁《こえん》の端へ、千鳥と云ふ、其の腰元《こしもと》の、濃い紫《むらさき》の姿がちらりと見えると、もみぢの中をくる/\と、鞠《まり》が乱れて飛んで行《ゆ》く。
 恰《あたか》も友呼ぶ千鳥の如く、お庭へ、ぱら/\と人影が黒く散つた。
 其時《そのとき》、お局《つぼね》が、階下へ導いて下《お》り状《ざま》に、両手で緊《しっか》と、曲《くせ》ものの刀《かたな》持つ方の手を圧《おさ》へたのである。
「うゝ、うゝむ。」
「あゝ、御番《ごばん》の衆、見苦しい、お目触《めざわ》りに、成ります。……括《くく》るなら、其の刀を。――何事も情《なさけ》が卿様《だんなさま》の思召《おぼしめし》。……乱心ものゆゑ穏便《おんびん》に、許して、見免《みのが》して遣《や》つてたも。」
 牛蒡《ごぼう》たばねに、引括《ひきくく》つた両刀を背中に背負《しょ》はせた、御番の衆は立ちかゝつて、左右から、曲
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