ら、可《よ》いかえ、柔順《おとな》しく御殿を出《で》や。あれを左へ突当《つきあた》つて、ずツと右へ廻つてお庭に出《で》や。お裏門の錠はまだ下りては居《い》ぬ。可《よ》いかえ。」
「うゝ。」
「分つたな。」
「うーむ。」
雖然《けれども》、局《つぼね》が立停《たちどま》ると、刀とともに奥の方へ突返《つっかえ》らうとしたから、其処《そこ》で、袿《うちぎ》の袖《そで》を掛けて、曲《くせ》ものの手を取つた。それが刀を持たぬ方の手なのである。荒《あら》き風に当るまい、手弱女《たおやめ》の上※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《じょうろう》の此の振舞《ふるまい》は讃歎に値する。
さて手を取つて、其のまゝなやし/\、お表出入口の方へ、廊下の正面を右に取つて、一曲《ひとまが》り曲つて出ると、杉戸《すぎと》が開《あ》いて居て、畳《たたみ》の真中に火桶《ひおけ》がある。
其処《そこ》には、踏んで下りる程の段はないが、一段低く成つて居た。ために下りるのに、逆上した曲ものの手を取つた局は、渠《かれ》を抱くばかりにしたのである。抱くばかりにしたのだが、余所目《よそめ》には手負《てお
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