まざ/\と信じて居《お》る。――関所に立向《たちむか》つて、大音《だいおん》に(権現《ごんげん》が通る。)と呼ばはれ、速《すみやか》に門を開《ひら》く。」
「恐れ……恐多《おそれおお》い事――承《うけたまわ》りまするも恐多い。陪臣《ばいしん》の分《ぶん》を仕《つかまつ》つて、御先祖様お名をかたります如き、血反吐《ちへど》を吐《は》いて即死をします。」
と、わな/\と震へて云つた。
「臆病もの。……可《よ》し。」
「計《はか》らひ取らせう。」
同音《どうおん》に、
「関所!」
と呼ぶと、向うから歩行《ある》くやうに、する/\と真夜中の箱根の関所が、霧を被《かず》いて出て来た。
山伏《やまぶし》の首が、高く、鎖《とざ》した門を、上から俯向《うつむ》いて見込む時、小法師《こほうし》の姿は、ひよいと飛んで、棟木《むなぎ》に蹲《しゃが》んだ。
「権現《ごんげん》ぢや。」
「罷通《まかりとお》るぞ!」
哄《どっ》と笑つた。
小法師の姿は東《あずま》の空へ、星の中に法衣《ころも》の袖《そで》を掻込《かいこ》んで、うつむいて、すつと立つ、早走《はやばしり》と云つたのが、身動きもしないやうに
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