あし》にぬつと立つ、此の大《だい》なる魔神《ましん》の裾《すそ》に、小さくなつて、屑屋は頭から領伏《ひれふ》して手を合せて拝んだ。
「お慈悲《じひ》、お慈悲でござります、お助け下さいまし。」
「これ、身は損《そこ》なはぬ。ほね休めに、京見物をさして遣《や》るのぢや。」
「女房、女房がござります。児《こ》がござります。――何として、箱根から京まで宙が飛べませう。江戸へ帰りたう存じます。……お武家様、助けて下せえ……」
 と膝行《いざ》り寄る。半《なか》ば夢心地の屑屋は、前後の事を知らぬのであるから、武士《さむらい》を視《み》て、其の剣術に縋《すが》つても助かりたいと思つたのである。
 小法師《こほうし》が笑ひながら、塵《ちり》を払つて立つた。
「可厭《いや》なものは連れては参らぬ。いや、お行者《ぎょうじゃ》御覧の通りだ。御苦労には及ぶまい。――屑屋、法衣《ころも》の袖《そで》を取れ、確《しか》と取れ、江戸へ帰すぞ。」
「えゝ、滅相《めっそう》な、お慈悲、慈悲でござります。山を越えて参ります。歩行《ある》いて帰ります。」
「歩行《ある》けるかな。」
「這《は》ひます、這ひます、這ひまして帰
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