、斉《ひと》しく、金剛杖《こんごうづえ》に持添《もちそ》へた鎧櫃《よろいびつ》は、とてもの事に、狸《たぬき》が出て、棺桶《かんおけ》を下げると言ふ、古槐《ふるえんじゅ》の天辺へ掛け置いて、大井《おおい》、天竜、琵琶湖《びわこ》も、瀬多《せた》も、京の空へ一飛《ひととび》ぢや。」
と又がぶりと水を飲んだ。
「時に、……時にお行者《ぎょうじゃ》。矢を貫《つらぬ》いた都鳥は何とした。」
「それぢや。……桜の枝に掛《かか》つて、射貫《いぬか》れたとともに、白妙《しろたえ》は胸を痛めて、どつと……息も絶々《たえだえ》の床《とこ》に着いた。」
「南無三宝《なむさんぼう》。」
「あはれと思《おぼ》し、峰、山、嶽《たけ》の、姫たち、貴夫人たち、届かぬまでもとて、目下《もっか》御介抱《ごかいほう》遊ばさるる。」
「珍重《ちんちょう》。」
と小法師《こほうし》が言つた。
「いや、安心は相成《あいな》らぬ。が、かた/″\の御心《ごしん》もじ、御如才《おじょさい》はないかに存ずる。やがて、此の湖上にも白い姿が映るであらう。――水も、夜《よ》も、さて更《ふ》けた。――武士《さむらい》。」
と呼んで、居直《
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