《したうち》しながら、
「ソレ、其処《そこ》に控へた小堀伝十郎、即ち彼ぢや。……拙道《せつどう》が引掴《ひっつか》んだと申して、決して不忠不義の武士《さむらい》ではない。まづ言はば大島守には忠臣ぢや。
 さて、処《ところ》で、矢を貫《つらぬ》いた都鳥を持つて、大島守|登営《とえい》に及び、将軍家一覧の上にて、如法《にょほう》、鎧櫃《よろいびつ》に納めた。
 故《わざ》と、使者|差立《さした》てるまでもない。ぢやが、大納言の卿に、将軍家よりの御進物《ごしんもつ》。よつて、九州へ帰国の諸侯が、途次《みちすがら》の使者兼帯、其の武士《さむらい》が、都鳥の宰領《さいりょう》として、罷出《まかりい》でて、東海道を上《のぼ》つて行く。……
 秋葉の旦那《だんな》、つむじが曲つた。颶風《はやて》の如く、御坊《ごぼう》の羽黒と気脈を通じて、またゝく間《ま》の今度の催《もよおし》。拙道《せつどう》は即ち仰《おおせ》をうけて、都鳥の使者が浜松の本陣へ着いた処《ところ》を、風呂にも入れず、縁側から引攫《ひっさら》つた。――武士《さむらい》の這奴《しゃつ》の帯の結目《ゆいめ》を掴《つか》んで引釣《ひきつ》ると
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