んど》の鷺《さぎ》ならねども、手どらまへた都鳥を見て、将軍の御威光、殿の恩徳《おんとく》とまでは仔細ない、――別荘で取つて帰つて、羽《は》ぶしを結《ゆわ》へて、桜の枝につるし上げた。何と、雪白《せっぱく》裸身の美女を、梢《こずえ》に的《まと》にした面影《おもかげ》であらうな。松平大島守|源《みなもと》の何某《なにがし》、矢の根にしるして、例の菊綴《きくとじ》、葵《あおい》の紋服《もんぷく》、きり/\と絞つて、兵《ひょう》と射《い》たが、射た、が。射たが、薩張《さっぱり》当らぬ。
 尤《もっと》も、此の無慙《むざん》な所業を、白妙は泣いて留《と》めたが、聴《き》かれさうな筈《はず》はない。
 拝見の博士《はかせ》の手前――二《に》の矢《や》まで射損《いそん》じて、殿、怫然《ふつぜん》とした処《ところ》を、(やあ、飛鳥《ひちょう》、走獣《そうじゅう》こそ遊ばされい。恁《かか》る死的《しにまと》、殿には弓矢の御恥辱《おんちじょく》。)と呼ばはつて、ばら/\と、散る返咲《かえりざき》の桜とともに、都鳥の胸をも射抜《いぬ》いたるは……
 ……塩辛い。」
 と山伏《やまぶし》は又湖水を飲む音。舌打
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