むね》に、時鳥が一《いっ》せいしたのぢや。大島守の得意、察するに余《あまり》ある。……ところが、時鳥は勝手に飛んだので、……こゝを聞け、御坊《ごぼう》よ。
 白妙は、資治卿の姿に、恍惚《うっとり》と成つたのぢや。
 大島守は、折に触れ、資治卿の噂《うわさ》をして、……その千人の女に契《ちぎ》ると言ふ好色をしたゝかに詈《ののし》ると、……二人三人の妾《めかけ》妾《てかけ》、……故《わざ》とか知らぬ、横肥《よこぶと》りに肥つた乳母《うば》まで、此れを聞いて爪《つま》はじき、身ぶるひをする中《うち》に、白妙|唯《ただ》一人、(でも。)とか申して、内々《ないない》思ひをほのめかす、大島守は勝手が違ふ上に、おのれ容色《きりょう》自慢だけに、いまだ無理口説《むりくどき》をせずに居《お》る。
 其の白妙が、めされて都に上《のぼ》ると言ふ、都鳥の白粉《おしろい》の胸に、ふつくりと心魂《こころだましい》を籠《こ》めて、肩も身も翼に入れて憧憬《あこが》れる……其の都鳥ぢや。何と、遁《に》げる処《どころ》ではあるまい。――しかし、人間には此は解らぬ。」
「むゝ、聞えた。」
「都鳥は手とらまへぢや。蔵人《くら
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