をば一番《ひとつがい》、そつと取り、紅《くれない》、紫《むらさき》の房《ふさ》を飾つた、金銀|蒔絵《まきえ》の籠《かご》に据《す》ゑ、使《つかい》も狩衣《かりぎぬ》に烏帽子《えぼし》して、都にのぼす事と思はれよう。ぢやが、海苔《のり》一|帖《じょう》、煎餅《せんべい》の袋にも、贈物《おくりもの》は心すべきぢや。すぐに其は対手《あいて》に向ふ、当方の心持《こころもち》の表《しるし》に相成《あいな》る。……将軍家へ無心《むしん》とあれば、都鳥一羽も、城一つも同じ道理ぢや。よき折から京方《かみがた》に対し、関東の武威をあらはすため、都鳥を射《い》て、鴻《こう》の羽《はね》、鷹《たか》の羽《は》の矢を胸《むな》さきに裏掻《うらか》いて貫《つらぬ》いたまゝを、故《わざ》と、蜜柑箱《みかんばこ》と思ふが如何《いかが》、即ち其の昔、権現様《ごんげんさま》戦場お持出《もちだ》しの矢疵《やきず》弾丸痕《たまあと》の残つた鎧櫃《よろいびつ》に納めて、槍《やり》を立てて使者を送らう。と言ふ評定《ひょうじょう》ぢや。」
「気障《きざ》な奴だ。」
「むゝ、先《ま》づ聞けよ。――評定は評定なれど、此を発議《ほつぎ
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