野大納言殿より、(江戸隅田川の都鳥《みやこどり》が見たい、一羽首尾ようして送られよ。)と云ふお頼みがあつたと思へ。――御坊の羽黒、拙道《せつどう》の秋葉に於いても、旦那《だんな》たちがこの度《たび》の一儀《いちぎ》を思ひ立たれて、拙道|等《ら》使《つかい》に立つたも此のためぢや。申さずとも、御坊は承知と存ずるが。」
「はあ、然《そ》うか、いや知らぬ、愚僧|早走《はやばし》り、早合点《はやがってん》の癖で、用だけ聞いて、して来いな、とお先ばしりに飛出《とびで》たばかりで、一向《いっこう》に仔細は知らぬ。が、扨《さて》は、根ざす処《ところ》があるのであつたか。」
「もとよりぢや。――大島守《おおしまのかみ》が、此の段、殿中に於いて披露に及ぶと、老中《ろうじゅう》はじめ額《ひたい》を合せて、
此は今めかしく申すに及ばぬ。業平朝臣《なりひらあそん》の(名にしおはゞいざこととはむ)歌の心をまのあたり、鳥の姿に見たいと言ふ、花につけ、月につけ、をりからの菊《きく》紅葉《もみじ》につけての思《おも》ひ寄《より》には相違あるまい。……大納言|心《こころ》では、将軍家は、其の風流の優しさに感じて、都鳥
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