お》の事だ。今更ながら、一同の呆《あき》れた処《ところ》を、廂《ひさし》を跨《また》いで倒《さかしま》に覗《のぞ》いて狙《ねら》つた愚僧だ。つむじ風を哄《どっ》と吹かせ、白洲《しらす》の砂利《じゃり》をから/\と掻廻《かきまわ》いて、パツと一斉に灯を消した。逢魔《おうま》ヶ|時《どき》の暗《くら》まぎれに、ひよいと掴《つか》んで、空《くう》へ抜けた。お互に此処等《ここら》は手軽い。」
「いや、しかし、御苦労ぢや。其処《そこ》で何か、すぐに羽黒へ帰らいで、屑屋を掴んだまゝ、御坊《ごぼう》関所|近《ぢか》く参られたは、其の男に後難《ごなん》あらせまい遠慮かな。」
「何、何、愚僧が三度息を吹掛《ふきか》け、あの身体中《からだじゅう》まじなうた。屑買《くずかい》が明日《あす》が日、奉行の鼻毛を抜かうとも、嚔《くさめ》をするばかりで、一向《いっこう》に目は附けん。其処《そこ》に聊《いささか》も懸念はない。が、正直な気のいゝ屑屋だ。不便《ふびん》や、定めし驚いたらう。……労力《ほねおり》やすめに、京見物をさせて、大仏前の餅《もち》なりと振舞《ふるま》はうと思うて、足ついでに飛んで来た。が、いや、先
前へ 次へ
全51ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング