いて敬伏《けいふく》した。
「小虫《しょうちゅう》、微貝《びばい》の臣等《しんら》……」
「欣幸《きんこう》、慶福《けいふく》。」
「謹《つつし》んで、万歳を祝《しゅく》し奉《たてまつ》る。」

        六

「さて、……町奉行《まちぶぎょう》が白洲《しらす》を立てて驚いた。召捕《めしと》つた屑屋を送るには、槍、鉄砲で列をなしたが、奉行|役宅《やくたく》で突放《つっぱな》すと蟇《ひきがえる》ほどの働きもない男だ。横から視《み》ても、縦から視ても、汚《きたな》い屑屋に相違あるまい。奉行は継上下《つぎがみしも》、御用箱、うしろに太刀持《たちもち》、用人《ようにん》、与力《よりき》、同心徒《どうしんであい》、事も厳重に堂々と並んで、威儀を正して、ずらりと蝋燭《ろうそく》に灯《ひ》を入れた。
 灯を入れて、更《あらた》めて、町奉行が、余《あまり》の事に、櫓下《やぐらした》を胡乱《うろ》ついた時と、同じやうな状《さま》をして見せろ、とな、それも吟味《ぎんみ》の手段とあつて、屑屋を立たせて、笊《ざる》を背負《しょ》はせて、煮《に》しめたやうな手拭《てぬぐい》まで被《かぶ》らせた。が、猶《な
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