とりつ》めたやうな騒動だ。将軍の住居《すまい》は大奥まで湧上《わきあが》つた。長袴《ながばかま》は辷《すべ》る、上下《かみしも》は蹴躓《けつまず》く、茶坊主《ちゃぼうず》は転ぶ、女中は泣く。追取刀《おっとりがたな》、槍《やり》、薙刀《なぎなた》。そのうち騎馬で乗出《のりだ》した。何と、紙屑買《かみくずかい》一人を、鉄砲づくめ、槍襖《やりぶすま》で捕《とら》へたが、見ものであつたよ。――国持諸侯《くにもちだいみょう》が虱《しらみ》と合戦《かっせん》をするやうだ。」
「真《まこと》か、それは?」
「云ふにや及ぶ。」
「あゝ幕府の運命は、それであらかた知れた。――」
「む、大納言殿|御館《おやかた》では、大刀《だんびら》を抜いた武士《さむらい》を、手弱女《たおやめ》の手一つにて、黒髪|一筋《ひとすじ》乱さずに、もみぢの廊下を毛虫の如く撮出《つまみだ》す。」
「征夷大将軍の江戸城に於ては、紙屑買|唯《ただ》一人を、老中《ろうじゅう》はじめ合戦の混乱ぢや。」
「京都の御《おん》ため。」
と西に向つて、草を払つて、秋葉の行者《ぎょうじゃ》と、羽黒の小法師《こほうし》、揃《そろ》つて、手を支《つ》
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