《これ》と前後して近江《おうみ》の膳所《ぜぜ》の城下でも鷲が武士の子を攫《さら》つた――此は馬に乗つて馬場に居たのを鞍《くら》から引掴《ひっつか》んで上《あが》つたのであるが、此の時は湖水の上を颯《さっ》と伸《の》した。刀は抜けて湖《うみ》に沈んで、小刀《しょうとう》ばかり帯に残つたが、下《した》が陸《くが》に成つた時、砂浜の渚《なぎさ》に少年を落して、鷲は目の上の絶壁の大巌《おおいわ》に翼を休めた。しばらくして、どつと下《おろ》いて、少年に飛《とび》かゝつて、顔の皮を※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》りくらはんとする処《ところ》を、一生懸命|脇差《わきざし》でめくら突《づ》きにして助かつた。人に介抱《かいほう》されて、後《のち》に、所を聞くと、此の方は近かつた。近江の湖岸で、里程は二十里。――江戸と箱根は是《これ》より少し遠い。……
それから、人間が空をつられて行く状《さま》に参考に成るのがある。……此は見たものの名が分つて居る。讃州高松《さんしゅうたかまつ》、松平侯の世子《せいし》で、貞五郎《ていごろう》と云ふのが、近習《きんじゅう》たちと、浜町《はまちょう》
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