がまゝに身をすくめた。はじめは双六《すごろく》の絵を敷いた如く、城が見え、町が見え、ぼうと霞《かす》んで村里《むらざと》も見えた。やがて渾沌《こんとん》瞑々《めいめい》として風の鳴るのを聞くと、果《はて》しも知らぬ渺々《びょうびょう》たる海の上を翔《か》けるのである。いまは、運命に任せて目を瞑《つむ》ると、偶《ふ》と風も身も動かなく成つた。我に返ると、鷲《わし》は大《おおい》なる樹《き》の梢《こずえ》に翼を休めて居る。が、山の峰の頂《いただき》に、さながら尖塔《せんとう》の立てる如き、雲を貫《つらぬ》いた巨木《きょぼく》である。片手を密《そ》つと動かすと自由に動いた。
時に、脇指《わきゆび》の柄《え》に手を掛けはしたものの、鷲のために支へられて梢に留《と》まつた身体《からだ》である。――殺しおほせるまでも、渠《かれ》を疵《きず》つけて地に落されたら、立処《たちどころ》に五体が砕けよう。が、此のまゝにしても生命《いのち》はあるまい。何《ど》う処置しようと猶予《ためら》ふうちに、一打《ひとう》ち煽《あお》つて又飛んだ。飛びつつ、いつか地にやゝ近く、ものの一二|間《けん》を掠《かす》めると
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