蘆《かれあし》の裡《なか》にかしこまる。
此の人間の気が、ほとぼりに成つて通《かよ》つたと見える。ぐたりと蛙《かえる》を潰《つぶ》したやうに、手足を張つて平《へた》ばつて居た狂気武士《きちがいざむらい》が、びくりとすると、むくと起きた。が、藍《あい》の如き顔色《がんしょく》して、血走つたまゝの目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》りつつ、きよとりとして居る。
四
此の時代の、事実として一般に信ぜられた記録がある。――薩摩《さつま》鹿児島に、小給《しょうきゅう》の武士の子で年《とし》十四に成るのが、父の使《つかい》に書面を持つて出た。朝|五《いつ》つ時《どき》の事で、侍町《さむらいまち》の人通りのない坂道を上《のぼ》る時、大鷲《おおわし》が一羽、虚空《こくう》から巌《いわ》の落下《おちさが》るが如く落して来て、少年を引掴《ひっつか》むと、忽《たちま》ち雲を飛んで行く。少年は夢現《ゆめうつつ》ともわきまへぬ。が、とに角《かく》大空を行くのだから、落つれば一堪《ひとたま》りもなく、粉微塵《こなみじん》に成ると覚悟して、風を切る黒き帆のやうな翼の下に成る
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